August「穢翼のユースティア」感想

穢翼のユースティアを終了したので感想をまとめておこうと思う。
まず最初に、プレイしながらTwitterで書き残したつぶやきを以下にまとめておく。

(発売前)

(発売後)

総評としては、とても面白かった。キャラクターの魅力という点ではどうしても前2作に劣ってしまうが、音楽も良く、全体として見たときの完成度は非常に高い。Augustは「最後のシナリオになると急に面白くなる」と思っていたメーカーだけに、シナリオ重視でこれほど最初から最後まで楽しめたのは大きな収穫である。

詳しい感想・レビューは、素晴らしいサイト様がたくさんあるのでそちらをご覧頂きたい。なので自分は、賛否両論だったと思われる最終章について言及しようと思う。
以下、ネタバレ感想。





レビューサイト等を見る限り、本作のシナリオは概ね好評で、特にリシアの章は評判が良い。しかしながら、ティアの最終章については賛否両論となっている。否定的意見の中でも多いのがカイムのヘタレ具合についてで、自分もやはり同じように感じてしまった。しかし再度最終章をプレイしたところ、初回時とは打って変わって非常によく作り込まれていると感じた。では、なぜこのような評価になってしまったのか。自分はその理由を、ある一カ所においてライターがミスを犯したからだと考える。

August作品のテキストにおける特徴の一つに、「Another View」という視点切り替えの挿入がある。要所要所で主人公以外(特に攻略対象のヒロインの場合が多い)の心情が語られ、主人公の一人称視点のみでは描ききることのできない背景を補足している。この手法は物語のテンポが落ちるという弱点もあるが、次に起こる事件への導入であったり、あえて主人公には話せなかったヒロインの気持ちだったりと、これまでのAugust作品では実に効果的に使われてきていた。当然、今作でもAnother Viewは上手く使われているのだが、ライターは今作の最終章において致命的なミスを犯した。

最終章の中盤、カイムがティアと共に牢獄で黒い粘液に襲われた後のこと。ティアの記憶に障害があることを知り、研究を止めさせようとするカイム。しかしルキウスに説得されて、結局はティアのことをルキウスに任せてしまう。問題はこの後、ライターはルキウス視点のAnother Viewで次のように語らせてしまっている。

カイムはいつ気付くのだろうか。
選択するということの崇高さに。

この情報は、この後のカイムの行動に対する重大なネタバレである。なぜなら「カイムが決断する瞬間」が重要であると、容易に想像できてしまうからだ。これまでの章では、カイムという人物を通してヒロインを見てきたが故に「プレイヤー=カイム」が成り立っていた。しかしそのことを認識した瞬間、カイムはプレイヤー自身ではなく登場人物の一人となる。

最終章も終盤を迎え、物語は大きく動き出す。より過酷になるティアの研究。コレットを擁したジークの蜂起。明らかになるルキウスの本性。彼らが自分の信じる道を進むなか、プレイヤーの目に映るのは「選択するということの崇高さ」に気付けないカイムの姿だ。本来ならばプレイヤーはカイムと共に悩み、どうすることもできない苦しみを背負うはずだった。しかしプレイヤーの気持ちは、既に「いつカイムが自分の決断をするか」に向かっている。奇しくもルキウスの言葉通り、「知ることで、見える世界は変わ」ってしまったのだ。

一人悩み続けるカイムに、もはや今まで他のヒロイン相手に見せてきた頼もしさは無い。圧倒的な正義の前に、なすすべも無く立ち尽くすのみ。多くのプレイヤーが彼の姿にやきもきしたことだろう。そんなカイムがティアと共に生きる決意をしたとき、ようやく彼は再びプレイヤー自身となる。これ以降の展開について不満は無い。あえて言えばエピローグが欲しいところではあったが、ほぼ文句ない締め括り方だったと思う。

ルキウスという人物は、非常に面白いキャラクターだった。絶対的な正義であり、かつ圧倒的な敵であると同時に、また弟を愛する頼もしい兄であった。愛する人を救うために世界と戦う敵は多いが、世界を守るために愛する人の前に立ちはだかる敵は新しい。それゆえ、ライターは彼を悪役として描ききることをしなかったのだろう。それが先述したルキウス視点のAnother Viewに表れているのだと思う。ルキウスの肩を持ちすぎた結果、プレイヤーの感情をカイムから離すことになってしまったのは皮肉なものである。カイムとルキウス。本当に微妙なさじ加減ひとつ間違えた結果が、今回の賛否両論を引き起こしたのではないだろうか。


最後になるが、Augustは「夜明け前より瑠璃色な」から「FORTUNE ARTERIAL」、そして「穢翼のユースティア」と作品を重ねる中で、確実に「魅力的な男性キャラクター」の描き方が上手くなっている。FAの伊織・征一郎も良かったが、本作のルキウス・ジーク・ヴァリアス等、彼らの魅力があってこその面白さだったことは間違いないだろう。次回作が明るい舞台に戻るのか、またこのような重厚な世界観を作るのかは分からないけれど、きっとまた魅力的で格好いい男性キャラを見せてくれるはずである。


最後に一言だけ。メルト大好きだったので、メルトが亡くなるのだけはどうにかしてほしかった…。